台高・岩井谷遡行(2011/11/03-06)

紀伊半島は台高山脈の名渓、岩井谷を3泊4日で遡行してきた。台高随一の谷とされる岩井谷は噂に違わぬ険しくも美しい渓谷で、沢登りの総合力を試される充実した遡行となった。

2段28m滝の直登を試みる大部

・活動名:台高・銚子川岩井谷遡行
・期間:2011年11月3日(木)~6日(日)
・メンバー:CL佐野(4)、SL大平(5)、佐藤(2)、大部(東京外語大WV部)の4名
・岩井谷の概要:岩井谷は、台高山脈東部の銚子川水系の谷で、台高随一の名渓とされる。2段60mの三平滝、70m大滝などの巨瀑を擁し、間には10m規模の滝が無数にかかる。標高差は1170m、水平距離は6.3km、遡行グレード四級下、登攀グレードはIV+(『関西起点 沢登りルート100』(2011年)を参照)。

早稲田祭で4連休となったので、スラウェシ遠征でおなじみのメンバーで紀伊半島まで沢登りに行ってきた。小阪(京都府立医大山岳部)は台湾にキャニオニングに行っていたため参加しなかったが、 その代わり(?)に車を貸していただいた。

[0日目(11/2)]
20時京都駅集合となったので、佐野・大部は昼前から9時間かけて鈍行で一路京都へ向かう。大平は卒論で忙しいらしく、リッチに新幹線で来ていた。3人が20時頃京都駅に集合するも、いつも通り佐藤が姿を見せない。駅前のなか卯で時間を潰していると、2時間後にやっと佐藤が到着した。
22時過ぎから出発し、4時間ほどかけて入渓点の銚子川第二発電所に到着した。軽く飲んでから就寝。

[1日目(11/3)]
6時過ぎに起床し、各自朝食を食べながら入渓準備をする。8時頃、発電所の巡視路を下り、林道の対岸にある岩井谷に入渓する。
水量豊富で予想以上にスケールの大きい谷で、これからの遡行に期待がかかる。
最初の10m滝は左岸を巻く。次の直瀑20mも直登など考えられず、 右岸のスタンス豊富な岩壁を登り、最後は綺麗に縦に開いた岩の割れ目を通過して滝上に出る。

直瀑20mは右岸の岩壁から高巻く
岩の割れ目をすり抜け、直瀑20mの滝上に出る

左岸にハングした岩壁を見ながら少し歩くと、釜をもった斜滝20mが現れる。遡行図では右岸高巻きだが、泳いで滝直下まで行ってみると、滝身の右側から直登できそうに見えた。まずは佐野が空荷で偵察に行くが、上段の一手が届かない。佐野が諦めたので、大部がリードで挑戦する。佐野が届かなかった上段の一手は、ショルダーで見事に越えた。

斜滝20m手前の釜を泳ぐ。水は青く澄んでいる。
斜滝20mをリードするオーブ。上段はショルダーで越える。

斜滝20mを越えるとすぐに2条5m滝、CS滝6mが続く。CS滝6mは大部がフリーで越えてお助け紐を出す。佐野・大平・佐藤は、残置ピトンにアブミを架けて越える。
左岸の枝沢からかかる2段150m滝を横目に歩いていくと、発電施設巡視路の吊り橋が見える。この吊り橋まで巨岩伝いに這い上がり、巡視路を通ってこの谷の核心である三平滝2段60mの手前まで進む。巡視路からは途中で直登不可能な20m滝が見える。巡視路がなければ、おそらく三平滝を覗きに行くことも不可能であろう。

巨岩を縫って吊り橋まで這い上がる
 信じ難い箇所に架かる巡視路の吊り橋

いよいよ三平滝手前の堰堤までたどり着くが、ここで予期せぬ事態が発生。三平滝滝壺にある取水口を点検中の作業員の方々と鉢合わせしてしまった。私たちが三平滝に取り付こうとすると、案の定作業の責任者らしき人に危険だから滝を登らないように注意された(彼の言い分では、三平滝には発電用の取水口と堰堤があり、そこは中部電力の敷地内なので勝手に入ることは許されないとのこと)。言い争ってトラブルになると今後の遡行者に迷惑が掛かりそうなので、素直に従い、大きく高巻くことにした。

ルンゼ右岸のクラックに活路を求めるも断念。

さて、三平滝は高巻くことにしたが、両岸とも側壁が非常に高くて弱点がなく、巻きルートが見つからない。1つ目の吊り橋まで戻って、右岸の大きめのルンゼから登ってみる。このルート取りは失敗で、ルンゼを詰めていくと崖状になってしまった。途中で佐野と大部がロープを出して登ってみるがいずれも厳しく、懸垂で降りて吊り橋まで戻る。結局、巡視路を相当に戻り、巡視路の階段で

ルンゼからの巻きを諦め、懸垂で巡視路まで下る

尾根まで上がり、尾根伝いに三平滝を越えて、まだまだ尾根沿いを進み、やっとノーロープで下れそうな所まで来てガレ場を下って沢床に降り立った。途中何度も迷って、この大高巻きに半日を費やしてしまった。

巻き途中の尾根からは、台高山脈の山々が見えた。 

沢に下りると、大きな釜に水を湛えた15m滝が見える。先を急ぎたいが、すでに午後4時を過ぎており、15m滝以降もゴルジュが続いてビバーク地に不安があったので、少し戻って風の防げる巨岩の合間で泊まることにした。

1日目のビバークサイト 

[2日目(11/4)]
4時半に起床し、朝食を済ませて身支度を済ませる。2日目の遡行は15m滝の高巻きから始まった。左岸にトラロープが懸かっていたので、それを使わせてもらい岩壁を這い上がる。なかなかトラバースできないので、どんどん高度を上げていく。途中で2回ほどお助け紐を垂らした。随分登った後でトラバースし、立木伝いに下って沢に向かう。最後に15mほど懸垂下降し沢床に降り立つ。
15m滝を越えると、渓相は穏やかになる。小滝は軽快に越えられ、所々にあるナメや淵が美しい。途中の2m小滝でお助け紐使用。小瀬谷出合からは少し泳ぎがあるが、晴れていたので寒くはない。

大きな釜に水を湛える15m滝。左岸から巻く。
15m滝を越えると、渓相は穏やかになる

梅ノ木出合まではスムーズに進んだ。通常ではここが初日のビバークサイトとなるようだ。ここからは怒涛の連瀑が始まる。最初の6m滝、15m滝は右岸から小さく巻けた。沢は右に折れて2段28m滝(18m+10m)が姿を見せる。18m滝の中段までノーロープで登り、中段から大部がリードで直登を試みる。しかし、見た目よりも厳しく、クライムダウンして左岸から巻く。その後の18m滝、斜滝5m、15m滝も巻いた。巻きも微妙に悪く、一箇所は残置ピトンにアブミを架けて越えた。最後の斜滝3mだけ直登すると、連瀑帯は終わった。

2段28m滝の一段目18m滝
2段28m滝をリードする大部。この後空荷で挑戦するが敗退。

連瀑帯を越えて30分ほど歩くと、再び滝が続く。15m滝を巻いた後は、CS滝8m。滝水を浴びながら釜を泳いでCSによじ登り、遡行図通りに滝身左を佐野がリード。CS上でのビレイ点作成にまごつき、飛沫ですっかり身体が冷えた。滝自体は、取り付いてみるとガバホールドが多く簡単に登れた。

CS滝8mのリード。11月のシャワークライムは身体に堪える
CS滝8mを上から。佐藤がプロテクションの回収をミスり、黒トライカムを紛失。

CS滝8mを越えると、しばらく大きな滝はない。狭い廊下となり、泳ぎが必要な淵がいくつかある。紀伊半島と言えど、さすがに11月日暮れ前の水は冷たく、途中でくじけかけた。濡れたくない一心でへつりを連発したため、ここでも結構時間を浪費してしまった。

暗い廊下の淵を泳いで突破する。水温低く、飛び込むのには覚悟が必要

狭い廊下を抜けると、平凡な河原となる。すぐに、整地の必要ない絶好のビバーク・サイトを見つけたので、夕方4時頃に行動を終え、ここに泊まることにした。焚き木も充分にあり、佐藤の持参したベーコンを直火で炙って食し、至福のひと時を過ごした。

[3日目(11/5)]
昨日同様4時半に起床し、朝食のパスタを食べてから行動開始。朝6時を過ぎてもまだ暗く、随分日が短くなっているのを感じる。初日の三平滝大高巻きのせいで計画より3時間ほど遅れを取っているが、なんとか今日中に下山したい。

平凡な河原をしばらく歩くと十字峡に到着する。綺麗な十字にはなっているが、源頭も近いので水量は少なく案外しょぼかった。ナメ床を進んでいくと、岩井谷最大の70m大滝が現れる。側壁が立っていて、高巻きも厳しそう。右岸のルンゼを登って高度を稼ぎ、際どい灌木帯を斜上していくと、ばっちり70m大滝の落ち口に着いた。

岩井谷最大の70m大滝。水量は少ないが迫力は十分。

70m大滝を越えても、まだまだ小滝や10m規模の滝が続く。さすがに連瀑にも飽きてきて、時間もないので、できるだけロープを出さずに巻いたり直登したりしながらどんどん進んでいく。狭い廊下を抜け、ガレ谷を越え、最後の連瀑帯の3段30m滝を中段から右に巻いて越えると、10時半頃にのどかな景色の源頭部に到着。水を汲み、休憩した後は、稜線目指して一気に詰め上がる。詰めは傾斜もゆるく、歩きやすい。

滝が多すぎて、遡行図を見てもどこの滝だか思い出せない。おそらく2段12m滝。
最後の連瀑帯の3段30m滝は2段目から右に巻いた。直登も可能。
紅葉した疎林の、のどかな源頭部の風景。険しい岩井谷の源頭とは思えない。

11時半頃、稜線上に到着する。車のある銚子川第二発電所までは登山道がないので、稜線上を西に随分歩いて、二の俣谷を下降して林道を目指す。
稜線は、尾根が広いために現在地を把握しづらく、迷いながらも慎重に進む。さらに、ガスってきたため展望が悪い。14時頃、やっとのことで二ノ俣谷へ下る支尾根にたどり着く。尾根沿いに二ノ俣谷に下りようとするが、途中で崖となり支尾根を登り返す。もう一つ南の小さい尾根伝いに再度下りてみる。途中で雨も降り始め、さらに劣悪な環境となる。急峻な尾根を灌木を頼りに下っていき、日暮れ直前にようやく二ノ俣谷の沢床に降り立った。二ノ俣谷を堰堤手前まで駆けるように下降し、真っ暗になる前になんとか林道に上がることができた。
銚子川第二発電所までは林道を2時間強歩かなくてはならない。疲れた身体に鞭打ち、林道のヘッデン下山を開始する。しかし1時間ほど歩くと、林道の橋が崩落しており、完全に道が途切れている。暗くて巻き道も見当たらないので、雨の中仕方なく林道沿いの樹林帯でビバークすることにした。予備食にアルファ米と棒ラーメンを用意しておいてよかった。

[4日目(11/6)]
士気も完全に下がり、4時半のアラーム音を全員が無視して6時半に起床した。崩落した林道の橋は、明けて見てみると崩落箇所をそのまま渡ることができた。ほかにもいくつか林道の橋が崩落していた。橋の崩落は、おそらく今年8月末の台風12号によるものだろう。

(おそらく)8月末の豪雨で崩落した林道の橋
崩落した林道の橋(2)

10時頃にやっと車を停めておいた銚子川第二発電所前にたどり着いた。その後は珍しく温泉に入り、尾鷲駅で佐藤を降ろし、桑名駅で大部を降ろし、佐野と大平は車で京都に戻って夜行バスで翌朝東京に帰った。

■総括
秋も深まり、今年はもう本格的な沢登りはできないかと思っていたが、充実した遡行を楽しむことができた。紀伊半島まで遠征した甲斐があった。
岩井谷は、特に下部が水量豊富で威圧的で、佐野の少ない経験の中では一二を争う素晴らしい渓谷であった。ただ、核心の三平滝を見ることもできなかったのは心残りだ。
このメンバーでの遡行はそれなりの回数を重ねてきたので、登攀時の動きも随分スムーズになっていてよかった。佐野・大平・佐藤にとっては、遡行グレード4級下の沢を危なげなく遡行できたことは大きな自信となった。
個人(佐野)的には、まだまだ高巻きや直登のルート取りが未熟だと感じた。もっと沢に通って的確なルートを素早く判断できるようになりたい。あとは、プロテクションを取るのが遅い。クライミング能力が低いので、際どいポイントがあると不安で攻めれない。冬から春の間は、暇を見つけてジムとゲレンデに通い、登攀能力を身に着けたい。

最後に、京都府立医大山岳部の小阪くんには紀伊半島の谷をいろいろと紹介してもらった上に、車まで貸していただいて本当に助かりました。ありがとうございました。

記入:佐野洋輔

 

2件のコメント

  1. 個人的には、二ノ俣谷への下降中に遠望できた、黒滝80mが印象に残った。
    仙人でも出てきそうな雰囲気だったなー。

  2. 銚子川岩井谷の名前で検索したらこのページがヒットしました。40数年前のGWにこの谷を友人達3人でこの谷に挑戦したことを覚えています。その前に予定より1日余分にかかってしまい、職場で「遭難したんじゃないか」と心配されました。懐かしいですね。

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